誉田屋源兵衛 邸で観たもの

染織めぐり ∼さんち・作家紹介∼

群盲評像

帯匠『誉田屋源兵衛』について話そうとする時、寓話「群盲象を評す」を思い出します。六人の盲目の男が象のそれぞれの部分を触って

「壁のようだ」
「蛇のようだ」
「樹の幹だ」
「扇にちかい」
「ロープではないか」

と意見を交わす話です。
全体を把握すること、一部を知っただけですべてを理解したと思ってしまうこと、などを説くこの寓話。

創業約280年の西陣の老舗帯屋でありながら、セレクトショップとの協働や、制作した帯が海外博物館に所蔵されるなど、革新的な制作活動のある『誉田屋源兵衛』

メディア映像や取材記事も多々あり、私のような一呉服店の紹介はまさに「群盲象を評す」なのですが、十代目当主山口源兵衛氏の邸宅でもある誉田屋源兵衛の社屋にお邪魔する機会を得たので、そこで観た作品をシェアしたいと思います。

気配

室町三条にある家屋は、七代源兵衛が名人といわれた宮大工に10年かけて建てさせたという。

案内された進んだ先には・・

源兵衛氏は帯づくりの際、「気配」という言葉をつかっていましたが、商品の並ぶ様は「気配」に満ちた空間で圧倒されます。

誉田屋源兵衛の家訓にはこうあります。

計りてつくらず
・・「儲けを考えていては良いものはつくれない」

本物は残りて候
・・「本物はいつの時代でも価値が高く、継承される」

ここでは家訓にあるとおり、制作における効率といったものが度外視されたまさに芸術〈アート〉な帯を見ることができました。

「鯉」は誉田屋源兵衛 作品の重要なモチーフではないでしょうか。

NHKの番組「イッピン」に取り上げられた際にも、中国・宋時代の水墨画「双鯉図軸」を織で表現する過程が紹介されています。『跳鯉(ちょうり)』と名付けられた帯は、水墨画の古色を100年以上眠っていた「箔」を織り込むことで表現していました。

そんな「鯉」の系譜にあるこちらの作品。「龍になりかけの鯉」を描いています。

「銀は何色にもなる」と担当者の方に教えていただきました。
銀箔を日光で焼くことによって生まれる黒。そして対照的な金箔。二つの色の濃淡のみで描かれています。

尾の部分。織り込まれた箔の濃淡によって描かれていることがわかります。

帯のただならぬ「気配」を際立たせているのが背景です。

鯉とみれば水流、渦
龍とみれば雲
どちらにもとれる文様は立体的に膨れています。

なんと羊の皮を織り込んで凹凸を表現しているそう。
鯉〈龍〉が昇っていく躍動感が、見事な背景によって妖しく神秘的に演出されています。

誉田屋源兵衛では
「商品かアートか」
「帯として締めれるか締めれないか」
そういった範疇を超えた制作活動が行われています。

超絶技巧

時代が変わると需要も変わります。
幕末から明治に移り、大名や豪商に大事にされていた職人たちは職を失うことになります。国内は外国文化が重宝される中、明治政府は技術者の保護と外貨獲得のために、輸出用の作品作りを職人たちに命じます。

作品の中の一部は、江戸時代に培われた技術的にも芸術的にも質の高いもので、「超絶技巧」として近年話題になりました。

「清水三年坂美術館」で見ることのできる「超絶技巧」の作品たち。
そのなかの一つに蒔絵作品『渦文香合』はあります。茶道具の一種でもある香合の文様を織で表した作品がこちら。

超絶技巧が帯で再現されています。

蒔絵の質感を漆箔を使うことで表現し、渦文の立体感のために「真綿」を織り込むという徹底した再現。

いにしえの美

上記で紹介しました2作品のような、言ってみれば採算を度外視したアート作品はもちろん素晴らしいですが、そんな作品のDNAを引き継ぎつつも、もう少し身近な作品群も素敵です。

「いにしえの美意識を今に甦らせている」

「美の京都遺産」という番組に取り上げられた際の山口源兵衛氏の言葉です。

着尺『麻世妙(まよたえ)』についても、そんな理念から生まれた作品です。

江戸時代に綿が普及するまで、日本人の衣生活は年間を通して、麻を中心としていました。

植物の繊維から糸をつくり、織り上げて着物とすることは大変な労力でしたし、”衣”はより生きることに直結していました。麻は命を守るとして、神聖視させてきました。
日本人の身体を、太古から守ってきた”衣”を復刻する。

当時の素材(大麻)を再現した『麻世妙』の質感は、麻の従来のイメージを変えてしまうほど、なめらかです。裏を付けて秋冬用に仕立てられたりと、季節的にも麻の常識にとらわれません。

展示会情報

着物を着ることには、染織のアートを自分の身体にまとう、という魅力もあるかと思います。

ものに宿る精神性を大切にする誉田屋源兵衛さんの作品は、そんな魅力に溢れています。
また、誉田屋さんの作品は、近年は浴衣デザインも好評であったりと、接する度にこんな一面もあったのかと思わせてくれる愉しみがあり、まさに巨象のようと言ってもいいかもしれません。

そんな誉田屋源兵衛さんの魅力を、ぜひ直接に作品をご覧になって感じてくださいませ。

『誉田屋源兵衛』展示会

とき:2022年 11月5(土)6(日)7(月)

ところ:きもの屋そねはら特設会場
    長野県岡谷市南宮2-5-21

ご予約・お問合せ:0266-22-4966

きものKUREHA公式LINEにて、最新情報やお問合せ受付もしております。

友だち追加