緻密な糸目の芸術‣二代目 上野為二

上野為二工房 染織めぐり ∼さんち・作家紹介∼

二代目上野為二とは

記事をご覧いただきありがとうございます。
ここでは、友禅作家 二代目 上野為二
について京都の工房を取材させていただいた体験をもとにご紹介します。

「二代目上野為二」の世界

京友禅の名家 上野為二をご存じでしょうか。
二代目上野為二とは京都に工房を構える手書き友禅作家です。

上野為二の特徴は繊細で奥深い独自の作風にあります。
本記事では
その作風のルーツは?
如何にして描かれるのか?
という観点から作家上野為二を紹介していきます。

二代目 上野為二のルーツ

二代目上野為二の祖父にあたる 初代 上野為二 は
1955年に始まった最初の重要無形文化財及び保持者に認定された方です。つまり人間国宝第一号の一人なのです。
もちろん京都で初めての人間国宝。「友禅」で初めての人間国宝なのです。

ちなみに1955年同時に認定された方には
加賀友禅の木村雨山、京友禅の田畑喜八がいらっしゃいます。

京友禅の名家 上野一家とは

初代の上野為二の父にあたる上野家初代 上野清江(セイコウ)は
図案家として当時の百貨店などから誂えの仕事を受注し活躍していました。

上野家二代であり初代上野為二は
上野家の伝統を引き継ぎながら、以下のような活動で作家性を高めていきます。
・友禅染の一貫制作
・別家制度(弟子を育てて独立させる)
・古代加賀の研究

二代目上野為二氏はお話を伺った際、
「初代上野為二の弟子は何でもできた。」とおっしゃていました。

つまり、現在は分業が大半の京友禅の工程(それぞれ何年も修行が必要と言われる、下絵、糸目糊置き、色差し、地入れ、伏せ糊、地染め、など・・)を一人で行えるように弟子を育てられていたのですね。

初代上野為二(上野家二代)の息子は2人
・忠夫(上野家三代・二代目上野為二の父)
・清二

現在上野家は四代として忠夫氏の子
真氏が2003年に二代目上野為二を襲名
清二氏の妻上野街子氏が工房「清染居」を開きそれぞれ活動しています。

二代目上野為二の作風は、代々続く友禅染の名家上野家の伝統から生み出されているのです。

下の写真は、初代上野為二が最後に着手するも製作途中に亡くなり息子二人が完成させた作品(実物は国立博物館所蔵)

「歓」

何が描かれているでしょう。

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答えは「バラの花」です。
「真実は奥の奥を覗いてみないとわからない」
という考えからデザインされたそうです。
上野家は、高い芸術性で友禅表現を開拓していった伝統があるのです。

二代目 上野為二の作風

上野家の作風を決定づけるもの。
初代上野為二の行った古代加賀の研究これが大きく影響しています。

写真は見学させていただいた京都市中京区猪熊通りにある「上野工房」の一室。主に図案制作をされる部屋で図案の元となる資料蔵書がたくさん並んでいます。

上野為二の作風は「京加賀」といわれます。
初代上野為二は古代加賀の研究を通じて京友禅に加賀友禅の趣きを加えた技法を生み出しました。
また、日本画と洋画双方の技術を学ぶことで絵画的テーマと表現を深めています。
これを二代目上野為二は引き継ぎ「古代加賀の柄行を現代調へ」をテーマとして制作をされています。

二代目 上野為二の驚きの技法

京友禅でありながら抑制された色調と絵画のような細やかな表現。
そんな「京加賀」を生み出しているのは「細やかな糸目」に特徴があります。
糸目とは、染料がはみ出さないように下絵の輪郭線にそって米粉料とした糊を置いていく工程。糸目を失敗すると柄が崩れてしまうため、とても重要な工程になります。

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この松のなかに平行に書き込まれた何本もの線・・・
これこそ細やかな糸目技術の成せる表現です。
細やかな糸目は途切れやすく、通常よりもゆっくりと緊張感をもって引いていかなければなりません。

糸目を置いた後の色差し工程でも柄行が繊細なため、染料が溢れないように通常よりも糊の配分を多くしたどろどろの染料を筆で染めていくことになります。
粘度の高い染料は何度も何度も塗り込むようなタッチを重ねないと生地に浸透していかないためここでも根気のいる作業が必要となります。

色を重ねる「ボカシ」においても同様・・

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このような職人技で一枚一枚時間をかけて描かれる上野為二の友禅。
美しい松や茶屋辻、芸術的な作品も数多くあります。
そんな上野為二氏ですが「跡を継ぐ5代目はいない」とのこと・・。

それどころか、今制作を手伝っているお弟子さんの一人でも欠けると、もう年に数枚しか作れなくなってしまうのだとか。
今後、上野為二作品のような手仕事のきものはどんどん貴重になっていくと思われます。






きもの屋そねはらでは2020年に展示会を行いました。